「あのー。すみません……」

「はい」

「何者かに頭にチップを埋め込まれた場合の相談の窓口は、こちらでしょうか……」

「はい、そうですが」

「あっ、あのー、私……埋め込まれちゃったみたいで。ちょっと相談に来たんですが」

「あーはいはい、またか」

「えっ」

「埋め込まれてないから」

「え」

「というか、ご自身で埋めたんでしょ。埋まってないけど」

「いえ、埋め込まれてます」

「埋まってないでしょ。外に付いてるじゃないですか」

「あっ、外に付いてるように見えます?でもこれ埋まってるんですよ」

「あのねえ。ここにはあなたのような方が毎日来るんです」

「はい……」

「自ら、頭に工作や装飾を施して、チップを埋め込まれたと言い張って来るんですよ」

「あ……」

「子供の仮装レベルのひどいのもあったもんです。家電街の裏路地で買ったようなコンピューター部品を、セロハンテープでベタベタに張り付けてね。 それに比べたら、あなたのは頑張った方だ」

「ばれちゃいました……」

「いい加減にしてもらいたいですよ。中には大金を払って、精巧な特殊メーキャップアーティストに施させてまで来た人間もいたんだ」

「へえ、すごい」

「しかし、どいつもこいつも、埋まってた試しがない。外に付いてるんだからな。埋め込まれでもなんでもない、詐欺だ」

「すみません……」

「たちの悪いのもいる。私がそのことを指摘しても、まだ埋め込まれていると言い張るんだよ」

「あら、そういう人にはどうなさるんですか」

「騒いで仕方ないから、X線やCTで調べるさ。当然、何も写らんですよ」

「やっぱり、そうですか」

「挙句に、写らないタイプだとぬかしやがるんだ」

「あっ、確かに。写らないタイプかもしれないじゃないですか」

「写るよ」

「でも、写らない素材があって、あなたがまだその存在を知らないだけかも知れませんよ」

「そんな素材はない」

「ないとは言い切れませんよ。写らないタイプなら、写らないですよ」

「写らないタイプだったとしても写る」

「写らないタイプは写らないタイプだから写らない」

「私が持ってるX線は、写らないタイプも写せるタイプ」

「写らないタイプも写せるタイプをもってしても……」

「はいはい、お帰り下さい。はい、このチップを持って。 あんたは、ここから200m先のあの窓口へ行きなさい 」

「うまく逃げられちゃった……。あの窓口って、どこですか?」

「何者かにチップを埋め込まれていると言い張りたい症候群の相談窓口だよ」

「あらそうなの、じゃあ貴方は、写らないタイプも写せるタイプの画像診断装置を持ってると言い張りたい症候群の相談……」

「警備員ー!」